3月  鑑賞会
 
◆(朱実)
芽柳に焦都やはらぎそめむとす  阿波野青畝

柳自体がやわらかいイメージですが、ポツポツとした淡い黄緑色の
芽を風に泳がせる芽柳は、新しい生命を強く感じさせます。「焦都」
とは、空襲からまだ復興していない東京のことかと思います。焼
き尽くされてなにもなくなったようですが、そこにも春が来て木々
が芽吹き、人々に活気が戻って街も少しずつ再建されていく。
この句にはそんな未来への希望を感じます。


◆(朝也)
蟻穴を出ておどろきやすきかな  山口誓子

冬の間穴にこもっていた蟻が、春になって地上に出る。春の爽やか
な日差しは、地中にこもっていた蟻にとって喜びである一方で、未
知なる驚異とも思える。蟻の動きは元来不動というイメージからは
縁遠いものだが、この時期は殊更心許なく感じられる。掲句はそう
した風情をうまく表現している。
私自身定職に就いて数年が経つが、蟻に対する一定の共感はやはり
身の内に生じ易い。蟻の持つ厳格な社会性がそうさせるのだろう。
虫に義を見出した先人と我々は続いている。

◆(幸江)
女身仏に春剥落のつづきをり  細見綾子

仏像が剥げ落ちるまでの長い歳月。それが今も続いて
いることを立ち止まって眺めている本人。時の流れが
よく表現されていると思う。春の一時、散る桜のよう
に剥がれ落ちていく景かと思っていたが、後で春の雪
の景だと知った。雪と剥落の重なりがとても美しいと
思う。


◆(真知子)
土というものの黒さの雪間かな      渋亭

これは、素直に読んだまま受け取られる句だと思います。
土の黒さに、これから訪れる春の息吹、期待を感じます。
春は少しずつ訪れている、でも、なかなか来ないこの頃の
季節にぴったりなのでは、ないでしょうか。うーん、ぽか
ぽかした春が待ち遠しい!


◆(昌子)
垂れ髪に雪をちりばめ卒業す   西東三鬼

卒業式のシーズン、袴の女性をたくさんみかけます。銀座で見かけ
ると袴なんてどこの学校だろうと思ったりします。卒業は終わりと
始まりの二重の意味があります。白い雪とまだいくらでも開けてい
く未来が重なって、自分も頑張ろうと言う気になります。   

◆(昌義)
人恋し灯ともしごろをさくらちる  加舎白雄

そろそろ桜の季節ですね。昼間は桜並木の下を大勢の人が通り過ぎ
る。しかし、灯をともす頃、散り際には、人影少なくなっていく・
・・。このさびしい情景に自分の人生をダブらせ、歳を重ねて独り
身のわびしさ、失恋時の人恋しさを私は感じました。

ゆめに見る女はひとり星祭  石川桂郎

とてもロマンチストな作者ですよね!直球勝負の句。七夕の夜、夢
に見るのは彼女(君)ひとりだけだ。と断定している。なかなかこ
んな句は読めませんね。付き合いはじめて間もないカップルの方か、
新婚ホヤホヤの方なのでしょうか?ちょっと、いやとてもうらやま
しく思いました。

◆(貴幸)
春の星己が光のほか知らず   毛呂刀太郎

直接星を詠った句。これがなかなか難しい。この句では星を地上の
人々の気持にかぶせ、新入生のような新鮮さをうまく盛り込んだ。
春に星を眺める作者はいったい何を考えていたのだろう。作者の孤独
を詠ったというよりは、春の気分をさわやかに詠ったように感じる。


TOP→むつき
(C)copyright むつきの会 2003 All rights reserved. リンクはご自由にどうぞ